多様な働き方case:2 さとやまコーヒー
地域と自然と向き合って暮らしていく
男鹿を拠点に秋田県内で関係人口を作りながら自家焙煎したコーヒーを販売している彼らは、東京都出身で大学への進学を機に秋田へ来た、大西克直さんと秋田県出身で、県内の大学で農業を勉強している保坂君夏さん。
販売しているコーヒーは「さとやまコーヒー」と言い、売り上げの一部を活用し種や土を買い、諦めざるを得なかった農地(耕作放棄地)をもう1度再生しようと取り組んでいる。
2人の出会いや、さとやまコーヒーの販売の経緯など男鹿に拠点をおくきっかけとなったお話は、秋田地域振興局公式noteで掲載しております。
おが住では働き方や起業に至った経緯などをご紹介します。
大学生活を送る中で活動をし、何もないところから作り上げることで嬉しかったことはありますか?
大西:いっぱいありすぎて(笑)
コーヒーを美味しいって言ってもらえるだけで嬉しいし、自分たちの考えを聞いてもらえることも嬉しい。チームとして活動することで普通に暮らしているだけでは築けない人間関係を築けたことも嬉しいです。
でもそれが裏返ると苦しい部分でもあります。
発言をしなければ波風立たない事も、チームでやっているからこそ言わなきゃいけないことがあったり、でも苦しさ無しでは生まれないと思うので、表裏一体だなと思います。
保坂:自分達が活動するうえで事業を回すことができたのも、周りの人が親切にしてくれたからだと思います。
一番最初に、コーヒーを「ここでいれてみれば?」と声をかけてくれたのが、男鹿でアパレルや飲食などの事業をおこなっている船木一人さんでした。
ここトモスカフェ自体で独自のブレンドコーヒーがあるのにもかかわらず、他者が作ったコーヒーを入れて「出していいよ。」って言ってくれるお店はなかなかないと思います。
他にも、五里合にある珈音焙煎所の佐藤毅さんから農機具を貸してもらうなど、トモスカフェのスタッフさんやいろんな大人の人に支えられていることに嬉しさを感じます。
保坂:あとは、秋田県の視点から見た時に少しでも耕作放棄地が解消されると、もしかしたら自分が知らないところで誰かの喜びになっているかもしれない。
自分だけの視点ではなく、会社として社会に責任を負うという形にしたときに、自分たちのことだけじゃなく購入してくれるお客さんのためにもならなければいけないことを自分たちの中で考え始められたのは成長している点だなと最近思っている所です。
お世話になった人がいるから、男鹿でやっていきたいなって思えました。
大西:周りの人に支えられていると思うところはすごくあります。
そもそも事業を立ち上げていなかったら、男鹿や秋田に住むっていう覚悟が、たぶん一生生まれていなかったんですよね。
「雪しんど」と思う日もあるけど、そういう雪のしんどさとかまで愛でてみようと思えるようになったのも、たくさんお世話になった人が男鹿にいるから男鹿でやっていきたいなって思えました。
逆に苦労したことはありますか?
大西:ずっと苦労していますよ。
自分たちの考えに共感してもらって、応援してるよって背中をおしてくれる人がいる反面、知らない人は知らないままで、思いが伝わらないと購入までには至らないし、補助金や融資の面でも高いコンセプトから将来像みたいなものを描いているので、すごく単的に表すのが難しく伝えることに苦労しています。
保坂:そこの風土であったり、作付けを諦めざるを得なかった農地をもう1度戻さなければいけないと思っている。放置することで、過疎化がすすんでいる農村であったり、町のコミュニティが衰退していく、それをお金ベースで話すことは、たぶん簡単だと思います。
自分たちはそこではなく、何故そこで生活が営なまれているのか、今ある地域資源は何なのか、そのまだお金に換算出来ないものに対して、
“これが無ければこの地域は衰退していく、でもこれはいいものだから残していきたい。”
この部分をお金に換算して話すことになると、融資や資金調達など相談した際に、将来像の話なのでお互いわからないってなりますよね。
いつかは誰かがやらなければいけない
保坂:でもそういうところを、誰かがやらなきゃいけないんですよねこの先。その足掛けを自分たちがやろうってなった時に、どうすればバックアップしてもらえるのかっていうのはずっと考えているところではあります。
大西:もう少し立ち回りみたいなことがわかっていればやりやすいかもしれないです。
やり方など自分たちも同時に勉強して行かなければいけないことがたくさんあって根気がいります。
保坂:農業もそうですね。
耕作放棄地を再生するというモデルが少ないので、「農業やりたい」「新規参入したい」っていう農業を夢見る若者はこの先もきっとたくさん出てくると思うんです。
でも、その時に「どうやって始めたらいいんだ?」とか「農機具ってお金がいっぱいかかるけどどうしたらいいんだ?」と考えたときに、そこのモデルを作るっていう点で、自分たちが走っていく必要もあるし、自分たちがここで足踏みして辞めるってなった時に、彼らもおそらく同じことをすると思います。
そうならないように規模が小さくても付加価値をちゃんと担保したうえで野菜を届けられる、そういったお金も生み出せるというベースを作っておくと、きっと入りやすいと思うし、自分達みたいな悩みをあまり持たずにやりたいことを職業として、こういった地域でできる人も増えるんじゃないかなと思う部分もあります。勝手にそういった人の気持ちも背負っているみたいな感じがあります。
大学在学中での起業
学生のうちに起業されたのは非常に私もびっくりしました。何か理由はあったんですか?
大西:覚悟ですかね。
事業をする上で関わる人とかも出てくるし、関わる人たちに対してふわふわとした団体だとよくないと思い、どっちにしても卒業してからやっていく意思は前から固まっていたので、ちゃんと法人として社会に存在する活動をしたいなと。
保坂:やっていることは変わらないし、自分たちの方針もかわらない。法人化したからと言って何か変わったかと言えば特になく、覚悟を示したみたいな感じです。
『合同会社 秋田里山デザイン』屋号の由来
屋号の由来を教えてください。
大西:珈琲とか農業とかいろいろやっているけれど、自分たちが一番根幹としてやっている自分たちのメインアクティビティはデザインだと思っていて、どういう事かというと、
・自分たちで観察して
・自分たちで考えて
・自分たちでアクションを決めていく
この思考って言うのが自分たちのコアにあるところなので、それを里山という視点でやっていく。
大西:例えば珈琲で考えた時に、特に視点がさだまっていなかったら、コーヒーの飲み方って違うと思うんです。
だけど、里山という視点で見ると、背景や育つ過程に目もいくし、課題があるなら自分たちはこういうことがしたいなと考えたり関りを持ちたい、そういう部分で『里山デザイン』って言うのは決めていました。
『秋田』をつけたのは、里山のあり方というのは、地域によって異なるので、その地域の観察をしなければいけなくて、自分は秋田という地域でやっていく必要があるからこそ碇みたいな軸として『秋田里山デザイン』としました。
挑戦したい今後のビジョン
今後の展望を教えてください。
大西:今までは、大学の授業と平行としてやっていましたが今年卒業するので、これからはアクセルを踏みっぱなしでやっていこうと思っています。
まずは、さとやまコーヒーをしっかりと立ち上げたくて、コーヒーを育てている現地の農家さんに会いに行って直接買い付けをして、自分たちの手でコーヒーを届けたいです。
あとは、正直、里山ってなんだかわからないじゃないですか?
でも自分たちからしたら生態系とか生活文化みたいなものが地域によっていろいろあって、それがどういう風に循環しているのかということを、自分たちで観察して里山っていうのはこうなんだというのを、よりわかりやすく伝えていきたいので、その為に男鹿をまわりながら男鹿の発信をしていきたいです。
そして、行政教育機関や地域の人をまきこんで耕作放棄地をどう再生利用していくかを考えて実行していかなければいけないと考えています。自分たちのビジョンを打ちたてて協力を得なければいけない人にちゃんと働きかけて、まず第一歩を踏み出す準備をしていきたいと考えています。
保坂:自分は、男鹿市のエリアマネージャーになりたいなと。
どうしても地域おこし協力隊のように公的なところにいたら、一人に対して時間をさくということはなかなかできないことで、地域の農業を見ていると、いろんなものを作っていて、その人たちの作り方や味であったりそれぞれ個性があって、でも承継していく人がいないだとか、もうちょっと人がいたら「美味しいものをもっとみんなに食べてもらえるのにな」と思っている農家さんってけっこういると思っています。
毎日出したいけど土日しか出荷できないという人がいたとしたら、そういう時に自分みたいな若者が手伝いに行きます!って手伝いに行ったり、自分自身も農業に携わる上で独学なのでちゃんと農業をやってきた人のもとで働いて情報を聞いて技術を承継していきたいです。
保坂:あとは、地区ごとに里山って言うのはいろんな要素があると思っていて、水であったり、土であったり、そういったことがなされるのはこの男鹿全体でどういう生活がされているのかっていうのも関わってきていると思います。
里山で自分達が環境にいい栽培方法で作りましたと言ったところで他の人が、川下の方で農薬たくさん撒いているとか、漁業における課題や、海水温上昇などの気候変動が生じているなど、生態系をいろんな目で観察しやすい場所が、山と海が近い男鹿なので、面的な連携がすごいとれやすいなって自分の中にあり、そのコアな人たちと会って男鹿ってこういうところだよっていうのを1回自分で全部勉強したいと思っています。
それをコラムとして自分の勉強期間を持ちながら、里山的視点で男鹿の情報を発信していくことをやってみたいなと思っています。
持続可能な暮らしを考えて
保坂:自分が調べたデータを積み上げていくことによって、自分達がめざす里山がものすごく男鹿の人のためになる場所になると思っています。
自分たちの思想だけではなく、みんなで考えた場所ができれば、人が途絶えず自分達がいなくなっても、きっとこの先残っていくんだろうなってかなり長いスパンでものごとを見ている感じですね。
保坂:農業も自分で作りたいものを作るよりは、これがほしいと言われたものを作ろうとしています。
今は、量が作れるものやその土地で作りやすいものを作っている農家さんが多いと思いますが、男鹿で作った酒米が欲しいという声があがったり、知り合いのシェフからこういう野菜が欲しいって言われたものを丁寧に作って届けらる関係性がすごく大事だなと思っています。
これからは、そう言った意見をピックアップして作れるものは作っていきたいなと考えています。
―今の時代に合わせた農業の新たなあり方かもしれないですね。
保坂:最初の頃は面積を大きくしてたくさん作ろうみたいな考えがありました。人数も限られているし多額投資して機械を買うのは今じゃないなと思うので、手でできる範囲で届けられるものを欲っしている人に届けることを意識しながら農業をやれればいいなと。
その種を買うお金であったり土を買うお金をさとやまコーヒーから還元されているんだよっていうのをもう少し伝える必要あるなっていうのはありますね。さとやまコーヒーをどう届けるかが大事なところで来年はそこにフォーカスしていくことが自分たちの共通認識です。
起業を考える人へメッセージをお願いします。
「自問自答もしつつ、自分たちが達成したい目的を持ちましょう」
保坂:大学生での起業ということで、知見みたいなものがないことを前提に聞いてほしいのですが、自分は、自分がやりたいことをとりあえず全力でやるんですけど、それと平行してそれは本当に世の為になっているか?それは自分がやりたいことなのか?というのをずっとトライアンドエラー(=試行錯誤)することをしています。ダメだったらやめるのではなくてそれをあきらめないでやってほしいですね。
「起業を起業だと思ってほしくない」
大西:それぞれが思う起業っていうイメージがあると思うんですけど、例えば、好きなことやって自分の人生を生きようっていうような起業のスタイルだったり、しんどいけど頑張るみたいな。
たぶん本当はイメージがない方がよくて起業っていう概念自体一度壊した方がいいなって思います。
起業っていうものに縛られてしまう時ってどうしても、見栄にとらわれてしまいますが、実際はやることもすごく地味なので起業家のイメージみたいなのを持つよりは、やるべきことを主体的にやるだけなので、すでに今作り上げられているイメージを捨ててほしいですね。
― 私も個人的に思っていた勝手な起業のイメージがあったので、話を聞いて非常に柔軟なイメージに変わりました。
最後に
秋田県って若者が少ないから交流をたくさんはかるべきだと思っていて、行政が介入しているからではなく、勝手にそうなっているっていう形がベストだなと。
20代の自分が40代ぐらいの人たちと一緒いるようになったのも、会話の回数であったり同じ場所にいることが多かったり、生活の中でその地域の人と一緒にいる空間っていうのが自然と多かったからだと思います。
お互い尊敬しあってる、がんばってほしい、がんばらなきゃという気持ちが生まれているので、若者と上の世代が一緒に話していくということは大切だと思います。
【写真提供:合同会社秋田里山デザイン】
この記事に関するお問い合わせ先
企画政策課 移住定住促進班
電話番号:0185-24-9122
ファックス:0185-23-2922
〒010-0595
秋田県男鹿市船川港船川字泉台66-1
メールフォームによるお問い合わせ
更新日:2022年03月01日